日下七海の言葉

〈Ship〉を終えて

文責:日下 七海

このプロジェクトは私自身の見え方と、向かうべき方向性の発見になった。その理由は二つの点に絞ってみることができる。

まず初めに自分の中で演劇とはなにか、意味を見出したことである。

今までなぜ自分が演劇をするのか、あまり考えたことがなかった。このイベント期間内に一番考えたことは、演劇において何を良いとし、何を面白いと定めて観ているのか、また観ていて気になる基準はなんだったのかというものだった。演出的な部分ではあるかもしれないが、自分が演劇において最も着目している、大事にしていることを模索することで、何を基準とするのかを定めることができた。

またそれを追及し出た理論は、演出だけでなく役者自身が引き出す面白さでもあると気づいた。つまり自分の中の演劇のあり方、大切さだけでなく、俳優として向かう方向を定めることにも繋がった。

実は中国琵琶の名手でもあったが、合宿中はメンバーたちにだけ演奏を披露した

実は中国琵琶の名手でもあったが、合宿中はメンバーたちにだけ演奏を披露した

公開シェアでの日下。スタジオの窓を全て開けて空間全体であらゆる現象を受容する身体をおいた (写真:寺田凜)

公開シェアでの日下。スタジオの窓を全て開けて空間全体であらゆる現象を受容する身体をおいた (写真:寺田凜)

次に最終日に設定された発表の場である。

パフォーマンスのような物を0から思考し、人前に出すこと自体初めてだったため、思考したことをカタチにするのには、期間として短すぎるような気もした。しかし短く濃密だったからこそ出せた結論だったとも思う。

先ほど述べたが、パフォーマンスを発表すること自体が、自分にとってとても大きい経験となった。作家や演出家は常に思うことかもしれないが、あまり積極的に思考しない部分だったためとても新鮮だった。しかし俳優にもこの思考は必要だし、自身が演劇において何を目指すのか自覚するには必要な行為であると思う。

またその発表に観客がいたことも大きかった。自身の発表内の観客の反応や発表後の率直な感想によって、ダイレクトに自分が演者としてお客さんにどう見られているかを認識することになった。俳優という観点ではなく、私自身の特性を捉えた感想を聞けたことで、自分という人間が演劇に組み込まれる面白さを認識するきっかけとなった。結果としてこのプロジェクトを通して、自分の核になる演劇論を見つけ、また自分の俳優としての在り方を発見することができた。そして向かうべき方向を定める大きなきっかけとなった。

このプロジェクトを通したことで、今後の演劇との向き合い方を計画的に、具体的にすることができたと考える。


【日下 七海 Nanami Kusaka】

1995年生まれ。5歳よりバレエ、7歳より中国琵琶を始め、中学生よりコンテンポラリーダンスを始める。大学に入学後関西にて演劇を始め、現在「安住の地」に所属。安住の地での作品の他に、維新派『透視図』『トワイライト』『アマハラ』、ヨーロッパ企画「ギョエー!旧校舎の77不思議」などに出演。2019年講談社主催のミスiD2020にてSPOTTED賞受賞。また中国琵琶にて国内外でさまざまに賞を受賞。