日下七海・公開シェアレポート

日下の発表は若葉町WHARFの2階のスタジオだ。この前の時間に行われていたイベント「みなとの世界文学」の会場でもあったこのスペースは、なんとも言えないあおみどり色の床が特徴的で、通りに面した明るい部屋である。壁の一面は鏡張りで、2面には窓があり、部屋の隅にはアップライトピアノが備え付けられている。ダンスやミュージカルの稽古もできるのだろう。

そんなありがちな稽古場が、この時の部屋の中の景色は全く異なっていた。まず、電気が消えている。でも、カーテンは空いていて外の街灯の光が入ってくるので真っ暗ではない。部屋に入れられた観客たちは、部屋の中心に佇む日下を取り囲むように、思い思いの場所に座って、次に何が起こるのだろう・・・という雰囲気。窓の近くにはシュテンダーが置いてあり、そこにクリップライトがついて床を照らしている。照らされた先には、枯葉が撒いてある。これはなんなのだろう・・・?

日下は、しばらく窓の方を見ながら立っていたあと、突然、部屋の隅にいた私の方に勢いづいて向かってきた!!と思ったら、私、は別に関係なく、端から全ての窓を開け始めた。がつがつと開けていく。全ての窓を開け終わると、また中心の方に戻る。

彼女は、しばらくまたそこで佇んでいた。外からの冷たい風が、部屋の中にずんずん入ってくる。コートを着ていても、徐々に身体が冷えていくのを感じる。そしてこの感覚がこの部屋の中にいる全員に共有されているように感じる。しばらく、「何も起きない」時間が続いた。彼女は特に目立った動きをしていないように見えた。外からは、通りを歩く人のハイヒールの音や、車が通る音。どこかから聞こえてくる陽気な音楽。また車の音。車が通ると、ライトが反射して部屋の中にも光が動く。

・・・ん?気がつくと、日下が何か喋っている・・・?ような気がする?いや、気のせいか・・・。や、気のせいじゃない。何かつぶやいている。うん、やっぱりそう。

それくらいのボリュームで、彼女は何かを喋ったり、歌ったりしていた。しかもそれは、外から聞こえてくる音と連動している。音楽に合わせて歌ったり、風の音を声真似したり。車が来ると特に過敏に反応し、「車・・・!車ー・・・!」とうるさがったり(しているように見えた)。その時間が、かなり長い間続いた。だが、彼女の声は聞き取れるか聞き取れないか凄く微妙なレベルで、しかも外の音と合わせていると、彼女が喋っているのか、ただ反響しているのかすら分からない。体感的には15分、彼女が音に反応して声を出したり、音を出したり、呟いたり、動き回ったりという様子を、私たち観客はひたすら見ていた。

突然、携帯からアラームがなる。きれいな音だったような気がする。しかしそれは明らかに携帯のアラームだ。それを聞くと彼女は、すすすす、とまた窓の方に向かい、窓を一つ一つ、丁寧に閉め、カーテンを、閉めていった。時々、窓の外に目をやりながら。徐々に、外からの音が小さく、遠く、なっていく。どんどん、密閉されていく。そんなちょっと息苦しくなっていくような。

彼女は、カーテンを閉めながら、初めてここで口を開く。

「私にとって、『異物になる』ことが演劇である。また、『異空間の一部になる』あるいは『異空間を作るものである』それが、私にとって〈演劇〉である。という結論に至りました。」

「現実に見ているものを、それに対する概念を外すことで、非現実にすることで、それに対して改めて向き合い直す。そしてそれで感じたこと、その結果、現実に対して、ものに対して思ったこと、それを、提示する場が、作品である、という結論に至りました。だから今日、室内という概念を外してみることで、街に関して、生活空間の外に対して、感じてみること、その概念について、考えること、その結果、私が感じたことを提示する、という作品を作ることにしました。ありがとうございました。」

最後のカーテンが閉められた時、苦しさと、ちょっとした安心感が同時に訪れた。観客の拍手。

部屋の扉が開けられ、外に出るよう促される。階段を降り再び3階に向かう。

(寺田)


【日下 七海 Nanami Kusaka】

1995年生まれ。5歳よりバレエ、7歳より中国琵琶を始め、中学生よりコンテンポラリーダンスを始める。大学に入学後関西にて演劇を始め、現在「安住の地」に所属。安住の地での作品の他に、維新派『透視図』『トワイライト』『アマハラ』、ヨーロッパ企画「ギョエー!旧校舎の77不思議」などに出演。2019年講談社主催のミスiD2020にてSPOTTED賞受賞。また中国琵琶にて国内外でさまざまに賞を受賞。