藤村昇太郎の言葉

〈Ship〉に参加するにあたって、考える必要があったのが「自分にとっての演劇」について。大学生から始めた演劇は、今までで10年間続けている。その中で、改めて演劇とは何かについて問いを投げかけてみる。〈Ship〉を通じて得たことと、自分にとっての演劇は何なのかを、振り返りながら記していく。

【参加する前の自分にとっての演劇】

今まで演劇を続けていて、多くの公演に参加したり、観劇したりを繰り返していく中で、正直「いいなぁ」と感じられた舞台は、少ない。「やだなぁ」と感じてしまった舞台の、そのほとんどに共通しているのが、目の前で起きていることに何も特別なものを感じられないという状態がある。

それを感じてしまう原因は、脚本や演出にも様々な理由があったが、一番多いのが俳優の演技だった。観劇の際に、最も多くの情報を含む俳優に、日常で暮らしている人々との違いが見えてこなかった。「日常的な演技をされていたのでしょう」などという声が聞こえてきそうだが、そういうことではない、が、詳しく説明しようとするとすぐには出てこない。

あーでもない、こーでもないと考えていたところ「自分にとっての演劇を見つける一週間」という〈Ship〉の企画にお誘いいただき、是非にと参加を決めた。

【〈Ship〉開始までに】

自分にとって演劇とは何か。その答えがすぐには出てこなかったため、近いところから考えて辿りつくようにしていった。前から疑問に思っていた「やだなぁ」という演劇、これは自分が求めていない演劇であることはわかっていたため、先ずそこから解決してみようという道順で始めていった。

日ごろの生活から得るものがないかと躍起になり、答えを探しに探した。その中で、コンビニに立ち寄った際に気づかされたことがあった。お客が私だけの時に、買い物を済ませ外に出ようとした所、後ろから店員の談笑している声が聞こえてきた時だ。さきほどまで笑顔で丁寧な口調で話していた店員が、いきなり他の店員とふざけあっていたのだ。

この時、私が舞台の俳優に感じていたことは、店員がお客に対して行うサービスと非常に近いと感じていたことがわかった。店員がお客に対して、気持ちよく買い物を済ませられるよう、丁寧な言葉づかいと笑顔で対応するという演技が、舞台の俳優からも感じられてしまっており、特別なものでもない日常にありふれた行為に感じることとつながった。

次に、そうしたコンビニ演劇ではないものの、何が「いいなぁ」なのかについて考えてみたところ、共通しているものは異質であることだった。日常的な演劇でも異質であると感じることが出来れば「いいなぁ」で、逆に異質であってもコンビニ演劇されてしまえば「やだなぁ」となってしまう。

では、なぜ異質なものに惹かれるのだろうか。自分が今まで生きてきた中で、異質なものに惹かれていたのだろうか。そう考え始めて、短い人生を振り返ってみたところ、異質な人に良く会うなぁということが分かった。

保育園時代、夜に車で家族と出かけた時に、大通りを不思議なステップで渡る人。電車の行先を聞かれて、答えたら握手をしてほしいと頼む人。同じく電車で座っていた時「どこまで行くんですか?そうですか。座ってもイイですか?」と繰り返し言い続ける人。今までおもしろかったと思って笑い話として他の人に話してみても、大抵が笑う反応にはならない。自分はこうした人達がとても怖い反面、そういう状況が好きというものを持っている。舞台上に居る人々にも、こうしたものを求めていたのだと気づいた。これをどうWSにしていけばいいのかと考えていた時、少し前の公演のことを思い出した。

以前名古屋で活動していた時に、外国のダンサーとペアになることがあった。スウェーデン人の彼と話すときに、私は拙い英語でなんとかやりとりをしようと試みていたが、言語がわからないため、言葉に気持ちやニュアンスを乗せることをしていた。その経験から、言語が成り立っていなくとも、コミュニケーションはとれるということ。相手の動向をよく観察すれば、なんとなくわかってくるということだった。

言語がうまく伝わらないという実体験と、何をしているのかよくわからない怖い人達、二つを組み合わせながらWSを行うと、近いところまで行ける気がした。「自分にとっての演劇」をすぐには説明できないが、それを探ることはできる。〈Ship〉に滞在しながら、自分にとっての演劇を探っていこうと思い、課題であったWSを行いながらやっていこうと決め、ようやく荷造りを始めた。

≪Ship in≫
島村さんによる句会。渋革まろん発案の〈若葉町フラヌール〉は街歩きをベースにした日常空間との関係の結び直しを促した

島村さんによる句会。渋革まろん発案の〈若葉町フラヌール〉は街歩きをベースにした日常空間との関係の結び直しを促した

【若葉町フラヌール「俳句編」】

〈Ship〉の最初の企画は、滞在する町「若葉町」での街歩きで俳句を詠もうというものだった。滞在メンバーとお客さんを交えて、全員が好きなように若葉町を探索し、いいなぁと感じた風景や人物を基に俳句を作る。制限時間が過ぎたら一度集合し、誰のものかわからない俳句を手に取りプレゼン。良い印象を与えるもよし、悪い印象を与えて自分の作品を有利に導くもよしという、すごい推理戦だった。

自分が呼んだ俳句は「落ち葉掃き 見て見ぬふりの 一輪車」で、お婆さんたちが年の瀬だから綺麗にしておかないとねーと言い合いながら道の掃除をしていたのだが、道の陰に捨てられている一輪車についてはどちらも見て見ぬふりをしていたことが気になって俳句にしたものだった。しかし感想を言い合う中でどんどん飛躍したものが出てきて「一輪車はヒトを表している」と言ってくれるメンバーなどが居て、白熱した意見ぶつけ大会になった。

大会の結果は「この先は 右折できない 枯れけや木」を詠んだ俳句の先生が優勝。先生が言っていた言葉がおもしろく、俳句はこう読んだらかっこいい!素敵だ!という個人のこだわりなどで詠むのではなく、ただそのままを俳句にすることで、良い俳句になるという。5・7・5の情報では、そうした方が見えてくるもの、感じるものが多いため、個人的なこだわりは捨てていってほしいとのことだった。

初手から滞在メンバーの人柄ではなく、感性から知り合えたのが非常に良かった。年齢も地域もバラバラの人達で、どういったことができるのか非常にわくわくしたことを覚えている。

劇場を出発した直後に見かけたカモメに餌をあげる中年二人

劇場を出発した直後に見かけたカモメに餌をあげる中年二人

【WS】

自分にとっての演劇をWSで行う際に、自身は探り、参加するメンバーには理解してもらいたい。これを行うには実体験で得たことを話しながら、それに近いことを方法として実際にやってもらうことに決めていた。

私がおもしろいと思う「怖い人達」に通じるものは、言語は成り立っているのに、コミュニケーションがとれているとは思いにくい点だ。その箇所を探るため、下記の順番でWSを始めた。方法としては目の前に二人で向かい合って座ってもらい、それを残りのメンバーで見るという形式。

5つの会話方法 1. 好きな一文字で会話 2. 母音で会話 3. 普通に会話 4. 受け答えを別の会話で 5. 会話の途中で別の会話

  1. これは言語に頼らないコミュニケーションを行うことを主としている。「あ」でも「ぱ」でもなんでも好きな一文字を選んでもらい、それを相手に投げかける。相手もそれを受けて返事をしようとするが、使用できる言語が一文字だけなので、何も解決にならない。他のメンバーにやってもらったところ、だんだんと相手の動向を探り始めるが、連続して伝えようとすると受ける側の情報量が多くなり、相槌程度しか返せなくなる。次第に相手の一文字や目の動き、最小限のボディーランゲージ等、小さな情報交換を行っていた。

  2. 次に伝えたい文章の母音だけで会話をしてみる。「どこからきましたか?」なら「おおああいあいああ?」のように。今度は扱える情報が多くなっているが、やはり何を言っているのか正確にはわかりにくい。次第に相手の言いたい情報が、もしかしてこういうこと?と確認をとるようになってきて、同じ言葉を受けた側も繰り返し、確認が多くなった。その結果、相手の言いたいことがなんとなく分かり始め、英会話教室に通いたての二人が英語で会話してみる、程度にはコミュニケーションが取れていた。

  3. 次に普通に会話をしてもらう。そうするとお互いが驚くほどするすると話し始めていったのだが、どのメンバーも不安を覚えていた。②まで言語を扱えないという条件下であったために、もっと相手の動向を探ろうと心の距離が近かった分、いざ使い慣れている言語で行うと急に心の距離が遠くなり、且つ相手の動向が見えてこない分、何を考えているのかわからないという状態からくる不安だった。

  4. 次に言語は扱えるが、相手が全く違う受け答えをしてくるという会話。「こんにちは」に対して「それおいしいよね」というように。言語は扱え、相手の言葉も認識できる状態なのに、受け答えは全く別の方へと進ませる。時折噛みあってしまう受け答えが出てしまうも、各班に何度か挑戦をしていただいた。

  5. 次に、会話をしてもらい、途中の好きなタイミングで別の会話を始めるようにしてもらう。天気の話を始めて、相手も天気の話に加わっていたかと思えば、飼い猫の話を始める。飼い猫がかわいいという話をしている相手に対して、こちらは天気の話の延長を話している。というもの。急に来てしまう別の話題に惑わされず、相手の言葉に沿わない会話をするのが、非常に難しい。話の延長を自分で考えながら行わなくてはならないため、WS終わりでは「劇作と俳優の要素を同時に求められてるから難しい」という声が出るほどで、難しかった。

一番伝えておきたかった、会話の違和感は2.から3.で出ていたので良かったが、4.と5.が難しかったため、追い打ちはできなかった。最後にこのWSをしようと思った経緯を説明して、自分のWSを終えた。話していて気づいたのが、会話に於いて言語というものがひとつ距離を置いて、安全にコミュニケーションを取るための手段なのだということだった。共通の言語を持っているというだけで、相手と会話ができるため、何がしたいのかも声だけ聴いていれば事足りる。今後の課題と発見と脇汗と、非常に収穫の多い時間だった。

二日目におこなわれた藤村の担当回。二時間ひたすら即興で不条理な会話を作り続けて検証した

二日目におこなわれた藤村の担当回。二時間ひたすら即興で不条理な会話を作り続けて検証した

【滞在メンバーのWS】

滞在メンバーによるWSは、初日、二日目、三日目と行われており、自分は滞在二日目。それぞれのWSについて気になった箇所をメモしていたので記してみる。

[坂東WS]

俳優をやっていると、イメージしてとよく言われるものだが、実際にイメージできているのだろうかと考えさせられるWSだった。自分の右肩をゆっくりほぐした後、そのほぐした経験を左肩でイメージすると、本当にほぐれていた。次に2人でペアになり、一緒に走る時に同時で行くというイメージをしていたが、一度相手が動いた時にすぐに行くという反射神経でのズルをしてみたくなり、やってしまった。タイミングとしてはイメージでやるよりも遅れてしまったので、やはり別物になってしまうなぁと再確認ができた。

[日下WS]

BGMを流しながら、スタジオ内にある物、各自の私物などを用いて、使い方を知らなかったらどう扱うだろうという共通のイメージを持ち、好きなように置いたり、回したり、並べたり、持ってみたり。どんどん異質な空間となっていった。最後にある公演の映像を見せてもらう。たくさんのダンサーがドームの中で別々の展示物となっており、それを色んなお客が見ていくというものだった。同じ人間であるのに、異質な格好や演技をしているダンサー。見せ物であるという前提のもと、人は楽しく鑑賞できると感じた。

[藤井WS]

自分にとっての演劇についての質問を用意し、それを質問者である滞在メンバー達が好きなモノを選んで、質問をする。その質問に答えた後、自分から同じ質問をメンバーに返す。あなたにとって演劇とは?と同等かそれ以上の質問に、メンバー全員が問いを投げかけられていた。質問を選んでいる姿がとても人間的で面白かった。

[本田WS]

整体、体の仕組みについて。体の部位に喜怒哀楽が存在していることや、気持ちいい状態を自ら作り出し、その状態であれば体は無理なく動くことが出来る。自分の体を自分で騙すことで、使用できる部位を増やす。人とチンパンジーの差は、相手の立場に立って考えることができることという話が面白かった。人だからこそできること。だからこそ役の立場を考える俳優。

日下の担当回で紹介された影響を受けたアーティストの動画。その直前のWSの興奮も残っており食い入るように見つめる一同

日下の担当回で紹介された影響を受けたアーティストの動画。その直前のWSの興奮も残っており食い入るように見つめる一同

【〈Ship〉参加者によるWS】

〈Ship〉のWSは滞在メンバーだけでなく、隔日参加のメンバーからも受けることができた。

本田さんと同じく短距離男道ミサイル所属の小濱さんのWSは、筋トレ一択かと思いきや、とても和やかなWSだった。全員でキッチンへ向かい、お昼ご飯を作る過程を見るというもの。それは小濱さんのご両親が旅行先で食べた時にあまりにも美味しくて、旅館の方に直接教えてもらったというレシピだった。ご両親の出逢い方から、家族構成、最近では昔ほど手の込んだ料理を母親がしなくなったことなど話していく。手順通りに作れば出来る、というレシピには、沢山の人が明かされないだけで関わっていることに気づかされた。普段何気なく作る簡単な料理も、確かめる術はないかもしれないが、想像してみてもおもしろい。食事中は全員が味に集中してしまい、とても静かな午後だった。

そしてBERBRICAを主宰されている弓井さんのWSは、赤ん坊に観てもらうことを主としている公演の映像を見ることから始まった。それはどの世代の人が見ても心地いいと感じるのではと思うほどの映像だった。そして彼女のWSは赤ん坊になることから始まった。

赤ちゃんは周囲で起きた物事に関してとても敏感に反応している。全て感じたことを言葉にすることができないため、目や耳、顔の向きや手足を動かして反応を示している。その敏感な反応を取り戻すと言う意味でも、非常におもしろいWSだった。赤ん坊になる、と言われても、正直すごく難しいのだが、やってみると段々とその状態に近くなってきた。周囲の車の音や人の声、いつもは何気なく聞いていることでも、受け取り側が違えば別の印象を受け始めていく。最後に生まれた時を再現しようということになった時、私は相手を持ち上げてゆっくりと降ろすことでそれができると感じたが、実際には大人の体重のため、到底一人か二人で脱力仕切った大人をふわりと持つことはできない。頭では無理だと分かり、普段ならブレーキがかかるのだが、そういう枠組みを外すということに関して、非常に有効な手段だと感じた。

大人が赤ちゃんになる、というと、鮮烈に思い出してしまうものがある。小さい頃の記憶で、アメリカのキャバクラがテレビで紹介されており、とてもダンディなおじさん達が赤ん坊の姿でお酒を哺乳瓶で飲んでいる映像だ。今ではテレビ用に録られたのかもなどと疑うことが出来るが、それがWSの初めに出てきてしまい、少しためらってしまったことを後悔している。

料理担当として参加した小濱による「演劇×料理」のワンシーン。その後、彼は「〈Ship〉Ⅱ」の滞在メンバーとして参加している

料理担当として参加した小濱による「演劇×料理」のワンシーン。その後、彼は「〈Ship〉Ⅱ」の滞在メンバーとして参加している

【各々とマンツーマンで話す】

自分にとっての演劇を各々がWSで提示した後、各自マンツーマンで話合いをするという時間が設けられた。自分のWSをやってみて、どう感じたのか、また他のメンバーはどう感じたのかを直に聞いてみたかったため、早速話し合いを始めた。

一人目、二人目と話すごとに全員のWSで感じた「近い共通点」や、こういうことが言いたかったという発見があった。ある人の話では、恋人に顔を向けられずに話をされていて、あなたの好きな人は自分じゃなくてもいいんじゃないかと思ったことがあったという。WSで感じた言語に守られているという感覚に近い話が実体験で聞けたことが非常におもしろかった。

「近い共通点」に感じたことは、メモにまとめていたが、派生も含めている。

こうしてひとりひとりと話し合いを重ねていく中で、自分が演劇に求めていることが分かってきた。普段は目を背けたくなるような、怖い人々の発している異質さ。その異質さがとても人間として存在している強さがある。そうした人々は普段から自分を隠そうとはしていない、自分をむき出している状態にある。逆に隠そうとしている人や、無意識に隠している人たちが世間では大勢いる。そうした人を舞台上で観ても、何もときめかないし怖くもない。自分は演劇で人のむき出しの状態が見たいと言うことだった。言語に守られていながらも、その人だからこそできるもの、強く存在を示しているものの中でも、他の人達とは違う異質な怖さが、より人間臭く生々しいため、自分にとっての演劇と言える。

滞在メンバーの藤井と話す藤村。甘いものとしょっぱいものの両方を用意してのぞむあたり、女子力の高さが伺える

滞在メンバーの藤井と話す藤村。甘いものとしょっぱいものの両方を用意してのぞむあたり、女子力の高さが伺える

【若葉町フラヌール「町歩き編」】

今昔マップというサイトがあり、それを用いて若葉町の今と昔の違いを歩きながら探索していこうという企画。地図でみると若葉町と隣の町との境目で変な箇所があったりと、マップを見るだけでも楽しめた。実際にメンバーとお客さんとで若葉町をぐるりとマップを確認しながら周り、その後班に分かれて隣町の探索、その地域で誰かに地域の歴史をインタビューし、再度全員が集まった時に各自で発表。大きな紙に地図を記入し、各班の発表をその地図に書き込んでいく。沢山の情報が地図に書き記されていき、とても面白い一枚になったのだが、成果発表に回されることなく、綺麗に折りたたまれて行ってしまった。私が行った町では、担当の方も来てくれていた。歓楽街の多い地域で、その成り立ちを釣り具店のおじいさんに聞いてもらっていた。周辺住民の反対が少し遅れてしまい、建物だけが残ってしまったことで、どんどん入れ替わりで風俗店などが来てしまうのだと言う。ただ、おじいさんが言っていた「この道ずーっと行けばすぐ埼玉だよ」と言っていた道は、全く埼玉に通じていなかったため、信憑性は薄い。

若葉町フラヌール第二弾は、阿部さんによる周辺地区の町内にかかる境界線をチェックしていくWS。若葉町の意外な区画に一同驚いた

若葉町フラヌール第二弾は、阿部さんによる周辺地区の町内にかかる境界線をチェックしていくWS。若葉町の意外な区画に一同驚いた

【怖い人を求めて】

前日の若葉町フラヌールで、探していけば怖い人に会えると感じていたので、丸一日自由行動だったため、ひたすら歩いた。歓楽街の隅、誰もいかないような路地など回ったが、見つけたのは人の多い大通りだった。何人もの往来をかき分けて、クリスマスソングをハーモニカで演奏しながらゆっくりと歩いていくおじいさんが居た。見たところ浮浪している方のようだったが、同じように浮浪している方からおかしいものを見るような目で見られていたのが興味深かった。カップルは見て見ぬふりをしたり、一度見た人も見なかったことにして通り過ぎているのだが、明らかに存在感が強い。どの誰よりも個を主張していた。ティッシュ配りの人だけが、快くティッシュを配っていたのが印象に残った。 ・

【みなとの世界文学】

〈Ship〉最終日、自分にとっての演劇を発表する日、最後の町歩き企画。若葉町周辺を歩き、気づいたことを詩に起こし、朗読するという企画。町歩きの前に、一人一冊港に関係するテキストを事前に用意し、なぜ選んだのか、なぜこのテキストなのかを話していく。自分はこの町を歩いて感じたことをテキストに起こしており、若葉町から赤レンガ倉庫まで歩いていくにつれて、人も町もどんどん綺麗になっていくことを話した。その後、ドイツ語、英語、日本語による詩の朗読を聴き、感じ方、見え方の違いを発見。初対面の4名での町歩き、詩にする姿勢で歩いてみると、また感じ方が変わってきていた。最後に滞在メンバー全員が各班に居たため、代表して全員の前で朗読を行う。みなとの世界文学のお客の多くが、そのまま成果発表に残ってくれており、身が引き締まった。

工藤なおさんが同時開催した「みなとの世界文学」の終演直後の一枚

工藤なおさんが同時開催した「みなとの世界文学」の終演直後の一枚

【成果発表】

若葉町WHARF全ての階を活用した移動型成果発表となった。自分が担当したのは先ほどまで朗読をしていた劇場スペース。発表が始まると全員が上の階に移動するため、先回りして劇場の準備を行う。成果発表に用いたのは、以下の短いテキスト。

1 あのさ、ちょっと時間いい?聞きたいことがあるんだけど

2 うん、何?

1 こう、自分たちは今、会話してるよね

2 うん

1 でもさ、全然会話にならない人って、居るじゃない?

2 え、どんな人?

1 こないで電車で居たんだけど、優先座席で女の人が携帯いじってたら、後から乗ってきたおじさんが、すごい怒ってたの。「何してんだ!」って大声で

2 おお

1 でさ、ずっと怒ってて、周りの人も注意しないから。その女の人も辛そうで、ふとね、注意してやろうと思って、言ってみたのよ

2 やるね

1 「大きい声は止めてください」って、そしたらおじさんは「何言ってんだ」ってまた大声で

2 おー

1 言葉変えたりして、言ってみたけど、全然ダメだったんだよね

2 かっこいいことしたじゃん

1 膝ガッタガタだったけどね…でさ、なんて話しかければ良かったのかなーって

2 いや、そういう人にはムダじゃないか?

1 でも言葉は返ってきてたんだよね、暴言だったけど

2 その言葉が食い違ってるから、話し合えないんだよ

1 いや、最初の声のかけ方に問題があったのかもしれないじゃない

2 あ、ごめん電話だ

1 お父さんこんにちは、から入ってみるとかさ

2 もしもし

1 それか、女の人に先に注意しておくとか

2 全然大丈夫

1 声を低くしてみるとか、いやそういうのじゃないよね?

2 今からは無理だよ

1 何にせよ、投げて、返ってくるんだから、何とかできたと思うんだよ

2 明日?

1 うん、全然食い違っててもさ

2 その話はいいよ

1 そうかなー

2 何回も聞いたって

1 本当のところは分らないわけでしょ

2 そういう気はないから

1 いやいや、可能性の話で

2 切るよー

1 あるかもしれないじゃん

2 ごめんごめん、で、何の話だったっけ?

1 ううん、大丈夫

発表では自分が感じてきた演劇についてのことと、怖いと感じる人達のこと、若葉町を歩いて感じたこと、ハーモニカのおじさんのことなどを話しながら、上記のテキストを無作為に選んだ二人に読んでいただいた。演じず、声を出す、ただ読むという条件を守ってもらい、2組に呼んでもらう。このテキストは俳優が読むことを前提としておらず、言語を話す意外何も無い状態を意識している。演じてしまえば何か含みが生まれてしまい、意図していることとずれてしまうからだ。このテキストで意図しているのは、読む側が感じていなくても、観ている側が会話をしていると感じるかどうか。実際に会話が食い違っている点に入ってからも、会話に見えるかどうかを聞いてみたところ、半数以上は聞こえたとの反応をいただけた。

公開シェアでの藤村。唯一劇場空間を使っての取組みとなったが、このあと観客も参加しての読み合わせが始まる

公開シェアでの藤村。唯一劇場空間を使っての取組みとなったが、このあと観客も参加しての読み合わせが始まる

≪Ship out≫

【〈Ship〉を終えて】

自分にとっての演劇というのは、今もまだ変わっていない。怖い人達の異質な存在感は、まだまだ求めている。成果発表で得た半数以上は会話に聞こえたというところから、もう一度考えを詰めて、今度は俳優として読んでもらうにはどのようなテキストがいいかを考えている。自分にとっての演劇はまだまだ考える余地や、探っていく必要があるが、そのきっかけとして〈Ship〉は非常に良い後押しになったと感じている。

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【藤村 昇太郎 Shoutarou Fujimura】

1989年生まれ、三重県出身。愛知学院大学で演劇を始める。劇団牛乳地獄で役者として活動し、他団体へのダンス作品にも積極的に参加。もっと幅広く舞台芸術を学びたいという思いから、退団し上京後『ラフカット2017』『KAAT×Nibroll イマジネーション・レコード』『体現帝国 白雪姫』『第七劇場 ワーニャ伯父さん』に出演。