藤村昇太郎・公開シェアレポート

劇場入って奥に、椅子が客席のように並べられていて、最前列から1メートルくらいのところに、横並びで椅子が2つ置いてある。ソロパフォーマンスが始まるのか?という予想はすぐに裏切られることになるのだが。

観客全員が席に着くと、藤村は突然、これ以上ないくらいポップな口調で話し始めた。椅子が2つあるのにもかかわらず、その椅子の横の床に膝をついてちょこんと座る。彼のちょこまかした動きとと話し方は、客席の空気を緩ませた。彼は、〈Ship〉での滞在中、「自分にとっての〈演劇〉とは何か?」というところからスタートしたそう。藤村はまず、「そもそも〈演劇〉とは?」「『自分にとっての〈演劇〉』と考えるから難しいのか?」というところから始まり、「自分にとってのすごい異質な感じ=〈演劇〉という結論に達したそう。

彼は、滞在中の自分のワークショップとそこでの発見も紹介しながら、再び、結論を繰り返す。「会話の中での異質さを出す」ことが、「自分にとっての演劇」なのだ、と。「会話っていう安全なツールを使っているのに、相手の気持ちを意に介さず、自分の気持ちをどんどんぶつけてくる。というところに私は『怖い』って感じている。」

その後、「みなさんと共有したいので」と、A4用紙に印刷されたテキストを取り出した。

「読む側は、ただただ読んでくれればいいですし、聞く側は、ただただ聞いてくれればいいです。」 2部のテキストを読んでくれる2名を指名し、二つの椅子に座って声に出して読んでもらう。静かな劇場内に、観客二人の声が響く。劇場使用時と異なり防音をしていない空間なので、外からは車の通る音や人の話し声も聞こえてくる。

テキストは2人が会話する台本の形式で、そのセリフは日常会話に近い。

一人(A)が自分の経験をもう一人(B)に説明しているシチュエーション。Bが途中、電話に出て、電話先の相手と話を始めるが、その間にもAは自分の話を続ける。二人は「会話」していないはずなのに、AとBの話はところどころ噛み合っているように聞こえる。

一組終わり、もう一組指名する。読み終わった後、感想を聞くと、Aのセリフを話していた方は、「途中から独り言を喋っているような気になった。」 Bのセリフを話していた方は、「なぜか会話が噛み合っているように感じた。」と、同じテキストを使って話していた二人から矛盾した意見が出てきたのが印象的だった。

藤村の「会話に見えましたか?」という問いに、客席からは「見えた」という声が半分くらいから上がった。

最後に彼は、滞在中に、近所でハーモニカを弾いて歩くおじいさんの後をつけて録音したという音源の音量を上げながら、発表をまとめた。一週間の滞在を通して、彼が潜在的に持っていた二つの興味ー会話の異質さはどこから来るのか、という疑問と自身にとっての〈演劇〉とは何かーが結びついて、今回のような発表になったのかもしれない、と私は感じた。そこから、「次なる舞台俳優のための育成プログラム〈Ship〉」は彼や他の滞在アーティストにとって、「現時点で自身と演劇とを、何が繋ぎ止めているのか」ということを探る時間になったのではないか、と勝手に推測している。

(寺田)


【藤村 昇太郎 Shoutarou Fujimura】

1989年生まれ、三重県出身。愛知学院大学で演劇を始める。劇団牛乳地獄で役者として活動し、他団体へのダンス作品にも積極的に参加。もっと幅広く舞台芸術を学びたいという思いから、退団し上京後『ラフカット2017』『KAAT×Nibroll イマジネーション・レコード』『体現帝国 白雪姫』『第七劇場 ワーニャ伯父さん』に出演。