坂東芙三次・担当回

坂東が、参加者とおこなったことを(時系列順に)簡単にまとめる。

「ミラー・ワーク」の様子

「ミラー・ワーク」の様子

ここでは、「ミラー・ワーク」および、最後に行われたワークを中心に記述する。

坂東がいくつかのワークをつうじて手渡そうとしたことは、休憩後に話された坂東の関心と関わる。坂東が最近見た演劇と、関わった演劇で、共通して彼女の気づきとなったことがある。それは他者への想像力(とその困難)への気づきだといえる。

最近、シアターコモンズのオグトゥ・ムラヤ『Because I Always Feel Like Running』を見たそう

最近、シアターコモンズのオグトゥ・ムラヤ『Because I Always Feel Like Running』を見たそう

たとえば、アフリカ系の陸上選手が、(一般に想像されてしまう)身体的な優位性からだけではなく、「自分の命を削る」ほどの「human spirit」で、オリンピックの過酷なレースを「乗り切って」いることを知って、気づく(「あ、すごいなと思ってる人を、あんまり人間だと思ってなかった」「トータルの人間としてみていなかったな」)。しかし、気づきを得る、他者を「トータルな人間としてみる(想像する)」ことの困難がある。これをよくある困難であるとして、どうすれば解けるのか。

坂東「ちゃんと生きようと思って。自分の行動や舞台上での演技、乗せる体が思ったより世界中に影響しちゃうってことだから」

坂東「ちゃんと生きようと思って。自分の行動や舞台上での演技、乗せる体が思ったより世界中に影響しちゃうってことだから」

そのヒントとして、坂東は、いわゆる「六次の隔たり」の話をした(6人以内の人を介して、間接的に世界中の人とつながれるとする仮説)。このように想像すれば、たとえ「遠く」思えても、近くに感じられる(かもしれない、すくなくともその動機とはなる*2)。言いかえて、「遠い」他者にさえ、自分と同じものを見出しうる。

どちらがトレースしてるのかわからなくなることもあるよう

どちらがトレースしてるのかわからなくなることもあるよう

「ミラー・ワーク」では、(わたしの身体をトレースする)他者の身体を通して、「同じもの」をより細かく見る。自分の意図に反して、不正確に動く可能性を無視しないで(「遠さ」を無視せず)、それでも「同じ」だといえる可能性を探す。

紙に書かれたことから連想して、さらに書き込む

紙に書かれたことから連想して、さらに書き込む

「ミラー・ワーク」をふまえ、言葉において他者を想像する。最後に行われたワークでは、自分の関心や欠点や美点をあらわす短いフレーズをいくつか挙げ、それらから連想されるフレーズを、他の参加者がさらに挙げていく。そうしたフレーズを記述して、紙面を埋める。本人にとって中心化されている(されるべき?)言葉たちが、他の参加者たちの連想によって、ぼかされる。中心がずらされる(異化される)ことで、これを他者との関係性のうちに問い直す余白が生まれる。「同じ」言葉で、ちがうことを思えるという気づきから、中心を定めなおす。

2つのワークは、他者をあつかって、「遠さ」に気づいて、気づいた距離をどうにかしようとする(思うだけでも)ためのレッスンだったといえる。 このレポートを投稿後の坂東からの補足を引用する

*1

  1. まずやってみる

  2. 鏡役:人間役の表情なども含めて、一切妥協せず、完コピを目指す。 人間役:鏡役の人を本当に鏡として扱う。相手がついてこれるよう配慮したり動きをセーブしたり無意識にやってしまいがちだが、それをしない。鏡役の人の動きや角度がズレてると感じたときは、自分のポーズそのものが思ったよりズレてるんだなと認識する(本当の鏡の前にいるときは鏡を疑わないので)。

  3. 鏡役:人間役をコピーする部分を選んでいい。たまに反対の手を上げるなど、裏切ってもいい。 人間役:そういうものとして鏡を受け止める。

*2 

「立場の遠い人をどのように想像しうるか」と同程度かそれ以上に 「思いもかけない場所まで現に影響を与え合ってしまいうるか」(世界に参加してしまっているか)

記録チーム 飛田ニケ


【坂東 芙三次 Fumiji Bandoh】

1984年生まれ。愛知県出身・都内在住。日大藝術学部演劇学科演技コース卒。日本舞踊志賀次派坂東流名取。主な出演作に、宮城聰演出『マハーバーラタ〜ナラ王の冒険〜』(2014年 仏アヴィニョン演劇祭ほか)・『メフィストと呼ばれた男』・NISSAY OPERA『ルサルカ』、大岡淳演出『王国、空を飛ぶ!〜アリストパネスの「鳥」〜』、多田淳之介演出『歯車』など。演出・出演作品では、2013年ギィ・フォワシィ劇コンクール『相寄る魂』にて敢闘賞・讃陽食品賞・朝日ネット賞を受賞、利賀演劇人コンクール2013『紙風船』にて出場。SPAC中高生鑑賞事業パンフレット『冬物語』『授業』『顕れ〜女神イニイエの涙〜』執筆など、書き手としても活動。